万人受けする作品ではないような気がする、
という予想をしていた。
奥さんが、「どっちか観たい」と提案した2択のうちのこちらを選択した。
奥さんはあまりこういうストーリーのなさそうな映画は好まない。
どちらかというとわかりやすい映画が好きだと思う。
奥さんの2択のうち、
ひとつはこちらのわかりにくい系。
もうひとつはアイドル主演の分かりやすそう系。
私はいつもなら、奥さんの好きそうな方を選んでいたと思う。
今回は、おもしろそうだなぁと思っていたけど、存在を忘れていた作品を提案してくれた偶然に感謝して、自分の観たい方を選択した。
結果、
奥さんからは不評であった。
…さて、本作品はとてもいい映画だと感じた。
私の思う、いい映画の特徴は、
観終わってから感想があまりまとまらなかったり、なんだったんだろうという風になること。
現状では理解できずとも、
未来への種まき的な影響を受けられたら、
なんかいいなぁと思う。
本作品は、役所広司が、起きて、身支度して、トイレ掃除して、風呂入って、酒飲んで、本読みながら、寝る。という内容だ。
それを4日間くらい見せる。
そういったこと。
内容は、特にない。
平凡な日常にこそ、美は宿る的なことを映画で示そうとするとこうなるのか。
実はそれなりにイベントはあるのだけど、
重きを置かれているのは圧倒的にこちらの、
とるにたらない日常の方だろうと思う。
【ストーリー】
平山(役所広司)は、渋谷区のトイレ清掃員。
朝は近所のおばちゃんの掃き掃除の箒の音で目覚める。目覚ましをかけることはない。
なぜなら毎日が「同じ」だから。
起きられる。
目覚めて、布団をたたみ、
昨夜寝落ちした本をちらりと読み、復習。
歯を磨いて髭を整える。
はさみでちょきちょき。
服を着替えて、外へ出る。
空を見上げて、ほほえむ。
世界を愛してるような、
美しさを見つめているような表情。
自販機で缶コーヒーを買う。
これは毎朝同じ缶コーヒー。
缶を開けて、運転席に乗り込み、ひと口飲む。
どうでもいいところなんだけど、
普通は缶開けて飲んで、乗り込むか、
乗り込んで、缶開けて飲むかだと思うんだけど、なぜか毎朝先に缶開ける。
そうして、
スカイツリーが見えてきたら、
カセットテープで音楽をかける。
高速道路は、
平山の進む方は空いていて、
逆は渋滞している。
これは、平山が「普通」の人生ではなく、特異な人生を歩んでいることの表現かもしれない。
おしゃれなトイレを、
必要以上にきれいに清掃していく。
昼休憩はいつもの神社。
サンドウィッチをたべて、
フィルムカメラをぱしゃり。
現像するまでわからないやつ。
木漏れ日を撮る。
トイレ掃除終わったら帰って、酒飲んで、
本読んで寝る。
影による、1日のふりかえり。
※映像美の表現。芸術点を稼ぐ。
これが平日の流れ。
なんやかんやのイベントがいくつか入ってきて、平山がにやついたり、怒ったら、泣いたり、楽しんだりする。
喜怒哀楽。
キスされたら、ばっくれられたり、姪を守れなかったり、影踏みしたり。
土日は、銭湯行って、洗濯して、フィルム現像、写真の取捨選択、古本屋行って、いきつけのママのところへ行く。
そんなストーリー。
【印象】
この映画のわからないところは、
やっぱり影の存在。
また、ホームレスが出てくるけれども、
その存在もよくわからない。
ラストシーンの平山のなんとも言えない表情もよくわからない。
複雑さというか、いろんなものがまざったような。
つまるところ、解釈の余地が、
鑑賞者に委ねられているような表現が多く、
それがいいと思う人とよくわからないとする人が発生しそうだ。
平山が起きて布団をたたむシーンは、
毎朝あるけども、
その撮影の角度が毎朝違うのは、
毎朝が同じようでいて、異なることを表現するようでおもしろいとおもった。
今日も明日も地続きに見えて、
同じことの繰り返しだったとしても、
そのかけがえのない1日は、
きっぱりとその1日であって、
他の日と同じではない。
今日という1日を特別な1日として捉えることは、きっと人生を豊かにすると思う。
しかし、それがなかなか難しいことではあるが、この映画はそのことを浮き彫りにしてくれた。
今日という新しい1日を始めようと思う。
明日は明日。