うさぎやのどら焼き

 

父は、去年癌と診断された。

 

それから小康状態だけれど、

塩分を控えて健康的な食事をしている。

 

母から甘いものを制限されているが、

結構買ってきてしまうらしい。

 

医者からは、食事において、癌に対して特別気をつけるべきことはないと言われている。

今まで通りの食事でいいと。

 

でも、健康的な食事をするにしくはないから、

健康的な薄味な食事を意識することとなった。

 

母は一生懸命に父を長生きしてもらおうと頑張っている。

運動なんてほぼしなかった母が、健康的な運動のため公園で父とバトミントンしたり、

家で筋トレしたり。

癌に効くと言われるような情報を探して試したり。

 

さて、父はどう思っているか。

もっと自由に生きたいと思っているか。

制限づくの不自由な生き方よりも、

さほどの長生きでなくてもいいから自由に生きたいだろうか。

 

父は公を重んじる人だから、

地域のためとか社会のため、家族が望んでいることに重きを置きがちだ。

 

自分勝手に振る舞えない人だ。

 

だからこそ、

癌という死の淵に立って、

今こそ自分勝手でいいんだよと言ってあげたくなる。

 

でもそこは、父の個人的な価値観を優先してあげる方がいいだろうとも思う。

 

自分勝手に振る舞うことを是としない生き方をしてきた人が、

自分勝手に生きるとはどういうことなのか。

 

癌ではない、もしくはかなりの初期癌だろうと言われて検査した結果が、

ステージ4の末期癌だった人の気持ちはなかなか測れない。

 

その中でも、周囲への気配りを優先する強さに頭が上がらない。

 

今日は母に禁止されているであろう「うさぎやのどら焼き」でも

買っていってあげよう。